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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)20号 判決

上告人・附帯被上告人

盛岡市長

太田大三

右訴訟代理人弁護士

田村彰平

被上告人・附帯上告人

丸屋地所株式会社

右代表者代表取締役

杉浦金四郎

右訴訟代理人弁護士

荒木貢

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄し、右部分につき、被上告人の控訴を棄却する。

原判決中、原判決添付の同意及び協議申立目録一、三及び五記載の書面をもってした申立てに係る同意の履行請求に関する部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消し、右請求に係る被上告人の訴えを却下する。

本件附帯上告を棄却する。

第一項に係る控訴費用及び上告費用、第二項に係る訴訟の総費用並びに附帯上告費用は、被上告人の負担とする。

理由

上告代理人田村彰平の上告理由第一点の一ないし三について

都市計画法(以下「法」という。)三二条は、開発行為の許可(以下「開発許可」という。)を申請しようとする者は、あらかじめ、開発行為に関係がある公共施設の管理者の同意を得なければならない旨を規定する。そして、法三〇条二項は、開発許可の申請書に、右の同意を得たことを証する書面を添付することを要することを、法三三条一項は、申請に係る開発行為が同項各号の定める基準に適合しており、かつ、その申請の手続が法又は法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならないことを規定している。

右のような定めは、開発行為が、開発区域内に存する道路、下水道等の公共施設に影響を与えることはもとより、開発区域の周辺の公共施設についても、変更、廃止などが必要となるような影響を与えることが少なくないことにかんがみ、事前に、開発行為による影響を受けるこれらの公共施設の管理者の同意を得ることを開発許可申請の要件とすることによって、開発行為の円滑な施行と公共施設の適正な管理の実現を図ったものと解される。そして、国若しくは地方公共団体又はその機関(以下「行政機関等」という。)が公共施設の管理権限を有する場合には、行政機関等が法三二条の同意を求める相手方となり、行政機関等が右の同意を拒否する行為は、公共施設の適正な管理上当該開発行為を行うことは相当でない旨の公法上の判断を表示する行為ということができる。この同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないが、これは、法が前記のような要件を満たす場合に限ってこのような開発行為を行うことを認めた結果にほかならないのであって、右の同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない。したがって、開発行為を行おうとする者が、右の同意を得ることができず、開発行為を行うことができなくなったとしても、その権利ないし法的地位が侵害されたものとはいえないから、右の同意を拒否する行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであると解することはとはいえないから、右の同意を拒否する行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであると解することはできない。もとより、このような公法上の判断について、立法政策上、一定の者に右判断を求める権利を付与し、これに係る行為を抗告訴訟の対象とすることも可能ではあるが、その場合には、それに相応する法令の定めが整備されるべきところ、法及びその関係法令には、法三二条の同意に関し、手続、基準ないし要件、通知等に関する規定が置かれていないのみならず、法の定める各種処分に対する不服申立て及び争訟について規定する法五〇条、五一条も、右の同意やこれを拒否する行為については何ら規定するところがないのである。

そうしてみると、公共施設の管理者である行政機関等が法三二条所定の同意を拒否する行為は、抗告訴訟の対象となる処分には当たらないものというべく、被上告人が原判決添付の同意及び協議申立目録(以下「目録」という。)一、三及び五記載の書面をもってした同意の申立てにつき、上告人が法三二条所定の同意を拒否した行為の取消しを求める被上告人の訴えは、不適法として却下されなければならない。これと異なる原審の判断には、法令の解釈を誤った違法あり、右の違法は、原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中、上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、右部分につき、被上告人の訴えを却下した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。

なお、この場合、右部分に係る請求が認容されることを解除条件として、民法四一四条二項ただし書に基づき、目録一、三及び五記載の書面をもってした申立てに係る同意の履行を請求する被上告人の三次的請求を棄却した第一審判決に対する被上告人の控訴の当否について、審理、判断をしなければならないが、右の三次的請求に係る訴えは、権利義務の主体となり得ない行政機関に対し、民事上の義務として同意の履行を請求するものであるから、不適法であって、その欠缺は補正することができないものというべきである。このような場合には、原判決の右の三次的請求に関する部分を破棄し、右請求を棄却した第一審判決を取り消し、右請求に係る訴えを却下するのが相当である。

附帯上告代理人荒木貢の上告理由について

公共施設の管理者である行政機関等が法三二条所定の同意を拒否する行為が抗告訴訟の対象となる処分に当たらないことは前記説示のとおりであるから、被上告人が目録一、三及び五記載の書面をもってした同意の申立てにつき、上告人が何らの処分をしないことが違法であることの確認を求める訴えは、不適法というべきであって、右訴えを不適法として却下した原審の判断は、結論において正当である。また、目録一、三及び五記載の書面をもってした申立てに係る同意の履行を請求する訴えを不適法として却下すべきことも前記説示のとおりであるから、右請求を認容することを求める附帯上告は失当である。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、三八六条、九六条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三好達 裁判官大堀誠一 裁判官小野幹雄 判官高橋久子)

上告代理人田村彰平の上告理由

第一点、原判決は都市計画法第三二条の解釈を誤り、かつ理由そごの違法がある。

都市計画法には次のとおりの規定がある。

(市街化区域及び市街化調整区域)

第七条 都市計画には、無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図るため、都市計画区域を区分して、市街化区域及び市街化調整区域を定めるものとする。

2 市街化区域は、すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とする。

3 市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域とする。

4 市街化区域及び市街化調整区域については、その区分及び各区域の整備、開発又は保全の方針を都市計画に定めるものとする。

(開発行為の許可)

第二九条 市街化区域又は市街化調整区域内において開発行為をしようとする者は、あらかじめ、建設省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次に掲げる開発行為については、この限りではない。

(以下省略)

(公共施設の管理者の同意等)

第三二条 開発許可を申請しようとする者は、あらかじめ、開発行為に関係がある公共施設の管理者の同意を得、かつ、当該開発行為又は当該開発行為に関する工事により設置される公共施設を管理することとなる者その他政令で定める者と協議しなければならない。

原判決の判断が違法とされる理由は次のとおりである。

一、同意の処分性

都市計画法第三二条の同意について、原判決は判決理由の中で次のとおり述べて、上告人の不同意が行政事件訴訟法第三条に規定する行政庁の公権力の行使に該当するものとして、抗告訴訟の対象となる行政処分であると解釈している。

『被控訴人盛岡市長は、控訴人の本件一、三ないし五の申立(本件三の申立は既存の末流水路の改修工事にかかるもので新しい水路の設置に関するものではなく、本件四の申立は、新設の公園に関するもののみであるから、本件三の申立は、同意のみを求める申立で協議を求めるものではなく、本件四の申立は、協議のみをもとめるもので同意を求めるものではないと認められる。)に対し、「整備・開発・保全の方針」および「基本計画」に適合しないとして本件一、三ないし五の不同意の回答をしたものであるが、その内容は、本件開発対象地は市街地の無秩序な拡大を防ぎ、また市街地を取り囲む縁辺部の景観を構成している外郭緑地としての丘陵緑地として位置付けられていること、自然緑地として保全に努める地区とされていることというものであって、市街化調整区域に関する開発について開発審査会が審議すべき事項を先取りしているもので、これは当該公共施設の機能の維持とは全く関係のない事由であり、これは本来拒否できない理由に基づき同意及び協議を拒否をしたもので違法であるといわざるを得ない。しかして、右三二条に基づく公共施設管理者の同意、不同意について、都市計画法は申請手続、同意不同意の要件、通知、不服申立の規定を設けてはいないが、公共施設の管理者が同意を拒否すると、開発行為者の開発許可申請は不適法となり(法三〇条二項)、開発行為者は開発対象地に対する開発をすることができなくなる立場に置かれることとなり、開発行為者が本来有する開発をするという権利を侵害されることになる。したがって公共施設管理者の不同意の意思表示は、国民の権利義務又は法律上の利益に影響を及ぼす性質を有する行政庁の処分に該当すると解するのが相当である。』

ところで行政事件訴訟法第三条にいう「行政庁の処分」とは公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される(最高裁第一小法廷判決昭和三九年一〇月二九日民集一八巻八号一八〇九頁)。

本件の場合においては開発行為についての許可権限は都道府県知事にあり、公共施設管理者ではないことは法文上明白である。開発許可申請に対する許可、不許可ないし却下の処分が国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する行為として抗告訴訟の対象となるものであり、権限のない公共施設管理者の同意又は不同意の意思表示が処分行為となるとする見解は独自の解釈に過ぎない。

若し原判決のように理解するならば都道府県知事は開発行為の許可審査にあたり、第一次的権限を公共施設管理者に委ねたことになるが、都市計画法上そのような規定もなく、かつ地方公共団体とも異なる立場の公共施設管理者がそのような第一次的審査権を委任されることも法体系からみてあり得ないことである。

仮に原判決のように解するならば、公共施設管理者のなす同意又は不同意の意思表示は、開発許可申請における付随的性格のものではなく、独立の行政処分となるのである。しかし、都市計画法は、開発許可に関しては、申請手続き、許可の基準、許可・不許可の通知等についての規定を置いているが、法第三二条は、単に開発行為の申請をしようとする者の義務という形で規定を置いているのみであり、同条の同意について法は具体的な申請手続き、同意の要件、同意・不同意の通知のいづれに関しても全く規定を置いていない。また、法第五〇条は、処分についての開発審査会に対する審査請求について定めを置き、法第五二条は法第五〇条一項に規定する処分の取消の訴えについては開発審査会への審査請求前置主義をとることを定めているが、法第三二条の同意については含まれておらず、法が公共施設管理者の同意、不同意の意思表示を独立の行政処分として位置付けていないことは明らかである。

二、被上告人の開発権

原判決は「開発行為者が本来有する開発をするという権利を侵害されることになる。」と述べている。

これによると原判決は不動産業者である被上告人が当然に土地開発権を有しており、上告人の不同意によりその権限行使を侵害されたものと理解しているもののようである。

しかしこれも独自の見解に過ぎず、都市計画法を正しく理解していないことから生じた誤解である。

被上告人が不動産業者として宅地開発をその営業目的としている会社であることは争いのない事実であるが、そのことによって特定の土地について当然に開発行為者になるというわけではない。まして特定の土地について開発する権利を有しているわけではない。被上告人は本件開発を目的として土地所有者との間の合意のもとに、開発許可を得ようとしているものであるが、被上告人自体は本件土地について何らの権利をも有していないものであり、まして開発をする権利を有しているということは考える余地もない。原判決のように解すると不動産業者は何時どこの土地についても土地開発権を有していることになってしまうのである。

そもそも本件土地は法第七条に定める市街化調整区域であり、市街化を抑制すべき区域である(法第七条三項)。したがって市街化調整区域においては当然には開発行為が禁止されているのであって、例外的に開発許可がなされるのであるから、所有者も含めて何人も当然に開発権を有しているわけではない。

この点市街化区域とは同じ開発行為であってもその取扱が全く異なるのである。市街化区域はすでに市街地を形成している区域及びおおむね一〇年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域である(法第七条二項)から、開発行為が一定の技術的水準に達している場合には当然に許可されることになる(法第三三条)。

ところが市街化調整区域の場合は原則開発行為禁止、例外許可となるものであるから、さらに法第三四条の要件が加重されている。即ち法第三四条においては「前条の規定にかかわらず、市街化調整区域に係る開発行為については、当該申請に係る開発行為及びその申請の手続が同条に定める要件に該当するほか、当該申請に係る開発行為が次の各号の一に該当すると認める場合でなければ、都道府県知事は、開発許可をしてはならない。」と規定しているのである。法第三三条一項末尾は「開発許可をしなければならない」と法第三四条一項末尾は「開発許可をしてはならない」とあり、市街化区域と市街化調整区域についてその差異を明らかにしている。

被上告人は当然に特定の土地について開発権を有している者ではなく、さらに市街化調整区域にあっては、開発行為は原則禁止、例外許可とされるものであるから、上告人の不同意が被上告人の権利を侵害することにはならない。

三、公共施設管理者の地位

公共施設管理者のなす同意、不同意の意思表示は、公権力の主体として行うものではない。それは私人のなす場合と何ら変わるところがない性格のものである。

一般的に普通地方公共団体の代表者である市町村長においても、その行為がすべて公権力の主体として行うものではない。例えば、行政財産についての使用許可は行政処分の性格を有するものであるが、普通財産についての賃貸借契約の場合民法の適用を受ける私法行為に過ぎない。

まして公共施設管理者の場合は、道路、下水道等その利用者との関係については、その利用関係を限度として規制する権限を有するけれども、現実にその利用関係にない第三者に対しては何ら支配従属の関係にはなく、公権力に基づいて何らかの権限を有しているものではない。このような場合の意思表示は公権力の主体としてその権限を行使する場合には該当しない。公共施設管理者は飽く迄もその施設管理についての権限を有するのみである。

原判決の誤解は、偶々公共施設管理者が、盛岡市であることから生じたものであると解される。公共施設とは道路、公園のほか下水道、緑地、広場、河川、運河、水路及び消防の用に供する貯水施設とされている(法第四条一四項、政令第一条の二)。そして法第三二条には「あらかじめ、開発行為に関係がある公共施設の管理者の同意を得、」とあるが、この「開発行為に関係がある公共施設」とは、開発区域内にある既存の公共施設のほか、開発区域外にあって、開発区域に接続することとなる道路や、開発行為の実施に伴って変更又は廃止されることとなる公共施設も含まれる。当然ながらこの場合の道路、水路等は私有の場合もあり、この場合は当該私人が同意又は協議の相手方となる。

この点についての原判決は次のように述べて、私道所有者等はその対象とならない旨の見解を明らかにしている。

「当該開発行為により影響を受ける土地、建築物、工作物の所有権等の私的権利は開発行為の許可によっても侵害されるものではなく、三三条一項一四号が、右私的権利を有する者の相当数の同意を知事の許可の要件としていることからすると、三二条の公共施設には都市計画と無関係で、管理法を持たない公共施設の外見を有するようなものは含まれない(例えば、一般私人が自らの費用負担で開設し、その道路敷に対して所有権・借地権を有し、その維持・管理について権原者の自由に任せられているいわゆる私道は含まれない。)と解するのが相当である。」

しかしながら、法第四条一四項の公共施設の規定は、「道路法による道路」等の表現をしておらず、また、緑地、広場等については、一般的な管理法は存在しない。よって、法の公共施設の概念からみて、管理法を持たない公共施設の外見を有するようなものは含まれないとは言えず、原判決の判断は失当である。

また原判決において、法第三二条の公共施設には管理法を持たない公共施設の外見を有するものは含まれないと解する根拠として、「私的権利は開発行為の許可によっても侵害されるものではなく、三三条一項一四号が右私的権利を有する者の相当数の同意を知事の許可の要件としていること」としていることは、いささか的外れの論議である。私的所有権が問題とされることではなく、その利用関係に影響を生ずるおそれがあるので、既存の公共施設の機能を損うことのないようにし、かつ、変更を伴うときはそれを適正に行わせる必要があるため、法第三二条の同意の対象にされるのである。

法第三三条一項一四号の規定は、同項一二号の資力及び信用、一三号の工事施行能力の規定と相まって開発行為の実行担保の規定で、一四号の同意は、開発行為の施行又は当該開発行為に関する工事の実施についての同意にとどまるものであり、管理面での同意を含むものではない。なぜならば、法第三二条の同意にあたり公共施設の管理者と、その利用に供する土地の所有者が異なる場合には、工事に関する公共施設の用地の所有者の同意(法第三三条一項一四号の同意)をも要すると解されているとともに、管理面からの同意も含むとすれば公共施設の維持管理の面からして公共施設を管理する者全員からの同意が必要とされるところ法第三三条一項一四号の規定によれば相当数の同意で足りるとされているのであるから、一四号の同意と法第三二条の同意はおのずから異なるものといわざるを得ないのである。

また、法第三二条の趣旨からしても、同条の同意の対象となる公共施設は、管理法を持つ公共施設に限られるものではない。例えば私人所有の道路、水路の中でも一般公共の要に供されているものが開発区域と接続している場合は、宅地造成後の入居者による通行量や排水量の増加により当該道水路が影響を受けることは明らかであって、そのために同意の対象とする必要性は、地方公共団体の管理する道水路と何ら変わるところはないのである。このことは、私道である建築基準法による位置指定を受けた道路を都市計画法施行令第二五条四号の規定による取付け道路として開発区域内の道路と接続させようとする場合には、当該道路に関して法第三二条の規定に基づく同意が必要となるとされていること、法第三二条の規定により農業用の公共施設について同意を得ようとする場合、農業用水路と一体として影響を受けることとなると認められる揚水機場又はため池で当該水路の管理者と異なる者が管理するものがあるときは、水路の管理者の同意とあわせて、当該揚水機場又はため池の管理者(この場合当然ながら私人が含まれる。)の同意も必要であると解されていることからも明らかである。

さらに、法第三九条ただし書では、開発行為等により設置される公共施設について、法第三二条の協議により管理者について別段の定めをしたときは、それらの者の管理に属するものとして、市町村との協議の結果、私人が管理する場合を認めている。法第三九条の公共施設の概念と法第三二条でいう公共施設の概念は、同一と考えられるから、法第三二条でいう公共施設の範囲として、当然に私人の管理する公共施設も予定しているということができる。実際にも、開発行為の際設置される道路でも市道認定基準に該当しない等の場合は、市が引き継がず開発者の管理する道路となるが、それでも都市計画法上は公共施設たる道路となるのである。

法第三二条の同意の対象となる公共施設の管理者には、国若しくは地方公共団体又はその機関のみならず私人も含まれるということは、先に述べたとおりである。そして私人が公共施設管理者である場合の同意に関して、当該私人を公権力の主体たる行政庁とする旨の規定もなければ、その趣旨を窺わせる規定もない。一方、公共施設管理者が国若しくは地方公共団体又はその機関である場合について、私人が管理者である場合と区別して同意を扱っていると解されるような規定もないことを考えると、法第三二条における国若しくは地方公共団体又はその機関の公共施設管理者としての地位は私人のそれと変わるものではない。したがって、国若しくは地方公共団体又はその機関は、私人と同じ立場において同意ないしは不同意の意思表示をしているに過ぎず、同意、不同意は、公権力の行使といえるものではない(参考文献新訂開発許可制度の解説監修建設省建設経済局民間宅地指導室、発行(社)日本宅地開発協会一一八頁、一一九頁、参考判決東京地裁昭和六三年一月二八日判決、判例時報一二七二号九三頁)。

四、不同意の理由の違法性

盛岡市の本件事案に対する対応は、実務の行政指導の面において充分に首肯されるところである。即ち、市街化調整区域の開発行為は例外許可であるから、地域が特定されることによって事前指導の段階において既にその可能性の有無が明白である。この場合は、現地測量設計に入るまでもなく開発許可権者である岩手県において開発行為を断念するように指導しているところである。その理由は公共施設管理者に同意を求めるため、若しくは協議を行うためには、対象となる土地を実測し、土地の掘削、擁壁、道路、排水路、上下水道等についての詳細な設計が必要であり、開発行為の面積、規模により異なるけけども多額の費用を要することになるのである。

原判決のように理解するならば、県及び市町村においては都市計画上開発不適当としている市街化調整区域内の土地についても、公共施設管理者としては詳細な設計図面を提出させて、公共施設管理上の問題点について検討することになる。そして、結局土地利用の面においては開発不適当として不許可とされることになるのである。

そのような明らかに法律上目的達成不可能な事柄について国民に無用の出費をさせるようなことを法が強制しているとは解し難いのである。

したがって上告人がなした本件不同意は、都市計画法の趣旨に照らして違法と解されるべきものではない。

附帯上告代理人荒木貢の上告理由〈省略〉

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